暮らし
幽霊の出る物件はあるのか?家鳴りと心理的瑕疵
田舎の古いトンネルや空き家は「出る」と噂されがちです。
顔に見える木目、夜の家鳴り。
その正体と、不動産の取引で本当に問題になる「心理的瑕疵」について、国のガイドラインをもとにご説明します。
空き家の内見に立ち会っていると、「ここ、出たりしませんか?」と聞かれることがあります。
出ると噂される家は、実際にあります。
ただ、不動産を売り買いするときに説明しなければならない「心理的瑕疵(かし)」は、噂があるかどうかではなく、その家で実際に何があったかで決まります。
この記事では、噂の話と、取引で説明が要る話を分けてお伝えします。
「出る」という噂は、たいてい地元の外で広がる
担当者(吉田)の実家の近くに、古いトンネルがあります。
あるとき「あそこは出る」と噂になりました。
ですが、その噂が広まっていたのは、地元以外の地域でした。 地元では、そんな話は誰もしていません。
中学生のころ、部活の帰りに毎日そこを自転車で通っていましたが、一度も何かに遭ったことはありません。
田舎には、暗いトンネル、夜になると灯りのない道、使われなくなった建物があります。
見た目が「いかにも」なので、話が作られやすい。 そして、その場所を毎日使っている人ほど、何も感じていません。
人の脳は、勝手に「顔」を作る
シミュラクラ現象という言葉があります。
人の脳は、点が2つ並んで、その下にもう1つある(逆三角形の配置)と、反射的に「顔だ」と判断してしまう性質を持っています。
これは目の錯覚ではなく、生き延びるための仕組みだと言われています。
暗がりで相手の顔を素早く見つけられるほうが、危険を避けやすいからです。
古い家には、この配置がいくらでもあります。
- 天井や柱の木目、節(ふし)の並び
- 雨漏りの跡や、壁のしみ
- カーテンや家具が作る影
- 曇りガラスの向こうの、庭木の揺れ
夜、ひとりで、薄暗い部屋で見ると、余計に顔に見えます。 見えたとたんにドキッとするので、「気のせいだった」と分かったあとも、怖かった感覚だけが残ります。
「家鳴り」は、木造の家なら普通に鳴る
もうひとつが音です。
パキッ、ミシッという音を、霊的なものと感じてしまう方がいます。
木造の家では、次のようなことで音が出ます。
- 気温と湿度の変化で、木が伸び縮みする(日が落ちた直後や、明け方によく鳴ります)
- 小さな地震。
体に感じない揺れでも、建具は鳴ります - 車の通行。
道路に近い家では、大型車が通るたびに家が細かく揺れます - 屋根裏や床下に入った小動物(ネズミ、イタチ、ハクビシンなど)
- 給排水の配管が温度で伸び縮みする音
この地域の住宅は、ほとんどが木造です。 家鳴りは、木の家なら当たり前に出る音で、異常ではありません。
空き家のように人の出入りがなく静かな家ほど、小さな音がよく聞こえます。
それでも気になる方へ
こうした現象に強く反応してしまう方には、田舎の家はおすすめしにくいです。 田舎の夜は、都会で想像するより暗く、静かなことが多いです。
場所によっては隣の家までの距離があり、人の気配や生活の音が届きにくくなります。
そうなると、音ひとつ、影ひとつが際立ちます。
住み始めてから「やっぱり無理だった」となると、買った家も、移住そのものも重荷になります。
だから、決める前に次のことをおすすめしています。
- 夜にも一度、現地に行ってみる。 昼と夜では、まったく別の場所に感じられます
- 周辺も夜に回ってみる。 街灯の間隔、人や車の通り、周りの家の灯り。
家の中より、周りの環境で印象が決まることが多いです - 気になる音があれば、原因を一緒に確かめる。 多くは、建具の緩み、配管、小動物です
「場所に残る」という考え方について
もうひとつ、考えていただきたいことがあります。
同じ長崎県の長崎市では、原爆によって、その年の終わりまでにおよそ7万人以上の方が亡くなったとされています。
市街地の広い範囲で、多くの方が命を落とされました。
東京でも、1945年3月10日の東京大空襲で、一夜にして10万人以上が亡くなったとされています。
下町の広い範囲が焼けました。
もし「人が亡くなった場所には何かが残る」のだとしたら、長崎も東京も、街を歩けないことになります。
ですが、実際にはそんなことは起きていません。 人々はそこで暮らし、働き、子どもを育ててきました。
いまの東京の下町は、日本でいちばん地価の高い地域のすぐ隣で、住宅も店も建ち並んでいます。
つまり、怖いと感じるかどうかは、その土地の歴史そのものではなく、「知ってしまったかどうか」「気にするかどうか」で決まります。 同じ家でも、何も知らなければ何も起きず、話を聞いた翌日から音が気になり始める。
心理的瑕疵の「心理的」は、そういう意味です。
不動産の取引で問題になる「心理的瑕疵」とは
不動産の取引で本当に問題になるのは、噂ではなく「事実」です。
心理的瑕疵とは、建物や設備が壊れているわけではないけれど、心理的に住みたくないと感じる事情のことです。
代表的なものが、その物件で人が亡くなった事実です。
「幽霊が出るらしい」という噂そのものは、法律上の瑕疵ではありません。
一方で、過去に何があったかという事実は、私たち不動産会社が調べて、必要な場合にはお伝えしなければならないものです。
国のガイドライン(令和3年10月8日)
この判断に基準がなく、現場が困っていたため、国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を作りました。
主な中身は次のとおりです(※2026年9月24日時点)。
| 場合 | 売買 | 賃貸 |
|---|---|---|
| ① その物件で起きた自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒、誤嚥など) | 原則として告げなくてよい(期間の定めなし) | 同左 |
| ② ①以外の死、または①でも特殊清掃などが行われた場合 | 期間の区切りはありません | 発生(特殊清掃は発覚)からおおむね3年を過ぎれば、原則として告げなくてよい |
| ③ 隣の住戸や、日常的に使わない共用部分で起きた②にあたる死 | 原則として告げなくてよい | 同左 |
大事な点が3つあります。
- ②・③にあたる場合でも、事件性や世間への影響が特に大きい事案は、告げる必要があります
- 買主・借主から聞かれた場合は、時期や死因にかかわらず、告げる必要があります。 「聞かれなければ言わなくてよい」ではありません
- 売買には「3年で説明しなくてよくなる」という区切りはありません。 ここは誤解されやすいところです
告げるときに伝えるのは、時期・場所・死因・特殊清掃の有無です。
亡くなった方やご遺族の名誉と生活の平穏に配慮するため、氏名・年齢・家族構成や、亡くなったときの詳しい様子までは伝えません。
調べ方も決まっています。
私たち不動産会社は、売主・貸主に告知書という書面で、過去の事案を書いていただきます。
それで、通常求められる調査をしたことになる、という扱いです。
一方で、近所に聞いて回ったり、ネットの噂を集めたりする義務はありません。 むしろ、亡くなった方やご遺族の名誉を傷つけないよう、慎重に扱うこととされています。
ただし、告知書に書かれていなくても、事案があると疑われる事情があれば、売主・貸主に確認します。 当社もそのようにしています。
長崎で、墓地が「嫌悪施設」と言われにくいわけ
心理的瑕疵と並んでよく挙がるのが、環境的瑕疵です。
騒音や臭い、近くにある施設など、物件そのものではなく周りの環境による事情のことです。
墓地は、その代表として挙げられることがあります。
ほかの県では「墓地に近い」というだけで敬遠され、価格に表れることもあります。
ただ、環境的瑕疵には、はっきりした基準がありません。 「何メートル以内なら瑕疵」といった決まりはなく、感じ方の差がそのまま出ます。
ちなみに、住宅の側に「墓地から何メートル離さなければならない」という決まりもありません(距離の制限があるのは、新しく墓地を作る側です)。
長崎のお墓は、明るい場所
長崎で育った人に「墓地が近いのは嫌か」と聞くと、きょとんとされることがあります。
長崎では、お盆にお墓で花火や爆竹を鳴らします。 家族や親戚が集まり、お墓の前でお酒を飲み、お菓子を食べ、子どもたちが走り回ります。
夜のお墓が、いちばんにぎやかになる日です。
そしてお盆の最後、8月15日の夜には【精霊流し(しょうろうながし)】があります。
この1年に亡くなった方の家族が、手作りの「精霊船」に故人を乗せ、鉦(かね)を鳴らし、爆竹を鳴らしながら、掛け声とともに通りを練り歩いて送り出します。
亡くなった方を、涙だけでなく、にぎやかに見送る行事です。
亡くなった人をこれだけ身近に、明るく送る土地柄です。
死や、それにまつわる場所を、遠ざけるものとして扱わない文化があります。
墓石に彫られた文字も、金色が多いのが長崎の特徴です。
並んだお墓が日に照らされると、華やかにすら見えます。
こうした土地で育った方にとって、お墓は怖い場所でも、避ける場所でもありません。
ご先祖に会いに行く、身近な場所です。
だから「墓地が近い」ことを、そのまま値下げの理由とは考えない方が多くいらっしゃいます。
実際、墓地のそばの土地には、高台で見晴らしと日当たりがよい、静か、目の前に高い建物が建つ心配が少ないといった良さがあることもあります。
ただし、買う人が県外の方なら話は別です
気をつけていただきたいのはここです。
買う方・借りる方が県外の方なら、感じ方はまったく違うことがあります。
「地元では気にしない」は、売るときの説明を省いてよい理由にはなりません。
当社は、周りにどんな施設があるかは、良し悪しを決めつけずに事実としてお伝えします。 そのうえで、気になるかどうかはご自身で判断していただきます。
逆に、県外の方に気にされることが価格に表れているなら、気にしない方にとっては買いやすい物件ということでもあります。
当社の考え方
- 噂は噂として扱い、事実は事実として調べます。 「出るらしい」という話を、そのまま価格や条件の理由にはしません
- 聞かれたことには答えます。 気になることがあれば、遠慮なくご質問ください。
答えられないことは「分かりません」とお伝えします - 隠しません。 告知が必要な事案があれば、ご契約の前に書面でご説明します
- 告知が必要な事案のある物件は、価格や賃料が抑えられていることがあります
気にしない方にとっては、むしろ狙い目になることも
告知が必要な事案のある物件は、家賃や価格が相場よりかなり低く設定されることが少なくありません。 同じ広さ、同じ場所、同じ設備でも、数割安いということがあります。
そして、そこを気にしない方は、思っているより多くいらっしゃいます。 「安く広い部屋に住めるなら構わない」「亡くなった方がいたからといって、その家が悪いわけではない」と考える方から、むしろそういう物件を探しているというご相談をいただくこともあります。
もちろん、気になる方が我慢する必要はありません。
ただ、気にならない方にとっては、予算の中で選べる範囲が一気に広がります。 そういうご希望があれば、遠慮なくお伝えください。
家鳴りも、木目の顔も、住んでいるうちに気にならなくなる方がほとんどです。
ですが、気になるかどうかは人それぞれです。 内見のときに、そうした不安も含めてお話しください。
ガイドラインは、裁判の結論を決めるものではありません。 個別の事情によって判断が変わることもあります。
判断に迷う事案があるときは、当社から弁護士等の専門家に確認したうえでご説明します。
このコラムは2026年9月24日に書きました。
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このコラムの内容でご不明な点や、ご自身の物件についてのご相談も承ります。
売る・売らないが決まっていなくても構いません。
内容は秘密厳守です。