ビジネス(商用)
移住して飲食店を開く前に知っておきたい、田舎で店が続かない理由
都会から移住して飲食店や小さな店を始めたものの、数年で閉めてしまう方が後を絶ちません。
雲仙で見てきた「続かない理由」と、小さく始めて失敗しにくくする進め方をまとめました。
写真は通りの様子で、本文の内容や特定のお店とは関係ありません。
「移住して、海の見える町で小さな店をやりたい」。
そうしたご相談を、当社もときどきいただきます。
ただ、数年もたずに閉めてしまう方が後を絶ちません。 店を閉めるときは、内装の撤去費や残った設備の処分費もかかります。
移住そのものをあきらめて戻っていかれる方もいます。
開業を止めるつもりはありません。
始め方を変えるだけで、続く確率は上がります。 ここでは、うまくいかない理由と、失敗しにくい進め方をご説明します。
「開けていればお客さんが来る」は都会の話
都会で店をやっていた方ほど、つまずきやすいところがあります。
人口の多い街では、通りに面して開けていれば、通りがかりの人が入ってきます。
新しい店ができれば、それだけで話題になります。
宣伝も、インスタグラムで発信していれば、ある程度は届きます。
田舎には、その前提が全部ありません。
- 通りを歩いている人がほとんどいません。
移動は車です。
車から見えて、停められる場所でなければ、存在しないのと同じです - 新しい店ができても、話題は「知り合いのあいだ」でしか広がりません
- インスタグラムを熱心に更新しても、地元のお客さんの多くは見ていません。
見ているのは、都会の同業者と、たまにしか来ない観光客です
家賃が安いことも、判断を誤らせます。
都会の10分の1の家賃なら簡単だと感じますが、分母である売上も、都会の10分の1では済まないことがあります。 家賃は下がっても、材料費・光熱費・車の維持費は下がりません。
ガソリン代はむしろ増えます。
口コミは、良い話より悪い話のほうが速い
田舎では、店の評判が「知り合いのつながり」で回ります。
これは良いほうにも悪いほうにも働きます。
一度「値段のわりに量が少ない」「態度が冷たかった」と言われると、その話が驚く速さで広がります。
しかも、本人の耳には入りません。
気づいたときには、平日のお客さんが来なくなっています。
逆に、常連の方が「あそこは良かよ」と言ってくれると、宣伝費ゼロで人が来ます。田舎で評判を広めてくれるのは、SNSより人です。
テレビやYouTubeで見る移住は、うまくいった人だけが映る
「田舎に移住して、好きなことをやって、のんびり暮らす」。
そういう映像はたくさんあります。
ただ、そこに映るのは、うまくいった人か、うまくいっているように見せられる人だけです。
同じ時期に始めて閉めた人は、取材されません。
年金や別の収入があって成り立っている例も、そこまでは説明されません。
では、どうすれば失敗しにくいか?
ここからは、実際にこの地域で続いているお店を見ていて、共通していると感じることです。
1. いきなり全部を賭けない。
3か月の「お試し」から始める
いちばん大事なのはこれです。
物件を借りて、内装を入れて、設備を買って、という順で進めると、開ける前に数百万円が出ていきます。
その前に、小さく試す方法があります。
- 週末だけ、イベントや朝市に出店する
- すでにある店の定休日に、その厨房を借りて営業する(間借り)
- 移動販売やキッチンカーで、場所を変えながら反応を見る
- 市の「お試し住宅」や、体験の宿泊費の補助を使う
お試し住宅などの制度は、市によって内容が違います(※2026年9月24日時点)。
| 市 | 制度 |
|---|---|
| 南島原市 | お試し住宅(南有馬・口之津の2か所。 利用料は無料で、寝具のクリーニング代などは実費。 南有馬は1回10日以内、口之津は30日以内) |
| 諫早市 | 移住支援制度(「いさはや暮らし体験宿泊費補助金」など。 お試し住宅そのものはありません) |
| 雲仙市 | 移住・定住支援サイト(お試し住宅の案内ページが見当たらないため、市にご確認ください) |
| 島原市 | お試し住宅の案内は見当たりません |
どの制度も「移住を考えている市外の方」が対象で、申し込みの締切や条件があります。
詳しくは各市にご確認ください
3か月やってみれば、お客さんが本当に来るのか、季節でどれだけ変わるのか、自分の体力が続くのかが分かります。
そして、ほとんどの方は、この段階で現実を知ることになります。 思っていた数の半分も来ない、来ても回転しない、平日はまったく動かない。
頭の中の計算と、目の前のレジの数字がまるで違う、ということが起こります。
それでいいのです。
その現実を、数百万円を使う前に知れたかどうかが分かれ目です。
ここで手応えがなければ、店を構えずに済みます。
条件を変えてもう一度試すこともできます。
それは失敗ではなく、大きな損を避けたということです。
逆に、この段階を飛ばした方は、同じ現実を、内装も設備も入れたあとで知ることになります。 そこからやめるには、お金がかかります。
2. 「誰が、いつ来るのか」を数えてから決める
感覚に頼らず、数で確かめます。
- その通りを、平日の昼に何人・何台が通るのか(実際に数えてみてください)
- 近所に働いている人は何人いるのか。
昼食はどこで食べているのか - 観光のお客さんは、何月に多くて、何月にいないのか
雲仙・小浜のような温泉地では、お客さんの数が季節で大きく動きます。 夏の観光客だけを当てにすると、冬に売上が消えます。
続いている店の多くは、平日の地元のお客さんで固定費をまかない、観光の時期に上積みする形になっています。
3. 地元のお客さんが毎週来られる値段と形にする
旅行の方は、少し高くても払います。
地元の方は、毎週は払えません。
続いているお店には、普段使いできる形があります。
日替わりの定食、持ち帰りの弁当、仕出し、給食や会合の注文。
派手ではありませんが、日々の売上はこうした注文で成り立っています。
「自分の作りたいものだけを出す店」は、都会なら成り立つことがあります。
人口が多いので、少数の好きな人だけで席が埋まるからです。
同じ形を田舎に持ってくると、その「少数」がいません。
4. 駐車場を最優先で確保する
車社会なので、駐車場の有無が来店数を決めます。 「店の前に2台」では足りません。
家族連れや会合で来られると、すぐに埋まります。
物件を選ぶときは、次の順で見てください。
- 何台停められるか(近くに借りられる土地があるかも含めて)
- 車から看板が見えるか。
入りやすいか - 店の中の広さや雰囲気
3を先に見てしまう方が、とても多いです。
ただし、例外もあります。 田舎でも、人が歩いて集まる場所はあります。
温泉街の中心、観光施設のまわり、イベントや朝市が開かれる通りなどです。
そうした場所なら、駐車場が少なくても歩いて来るお客さんが見込めます。
そのかわり、そういう場所のテナントは家賃が高くなります。 「田舎だから家賃が安い」という前提が、そのまま当てはまらない場所です。
つまり、選ぶのは次のどちらかになります。
- 人が歩いている場所で、高い家賃を払う。
この場合は、歩いて来るお客さんでその差を埋められるかを見ます - 家賃の安い場所で、駐車場を確保する。
この場合は、車で来てもらえるだけの理由(料理・値段・評判)を作れるかを見ます
どちらにも成り立つ形があります。 悪いのは、「家賃が安い場所」を選びながら、「人が歩いて来る」ことを当てにしてしまうことです。
家賃の安さには理由があります。
その理由を、自分の店の形で埋められるかどうかで判断してください。
5. 建物にかかるお金を、契約の前に確かめる
飲食店にするには、建物側の条件があります。
空き家や古い店舗を借りるとき、あとから数百万円かかると分かることがあります。
- 保健所の基準(手洗い・シンクの数・床や壁の材質など)を満たしているか
- 給排水の設備。
浄化槽の場合は、その能力で足りるか - 電気の容量。
厨房機器を入れると足りなくなることがあります - 消防の設備(用途が変わると必要なものが増えることがあります)
- 建物の用途の変更が要るかどうか
居抜き(前の店の設備が残っている物件)は、この負担をかなり減らせます。 ただし、残っている設備が使えるかどうかは別の話です。
古い冷蔵庫やフライヤーは、動いても数年です。
6. 「やめるときの条件」を、始める前に決めておく
これを決めている方は、あまりいません。
ですが、続けるかどうかを冷静に判断できるかどうかは、ここで決まります。
- 手元のお金がいくらまで減ったら、いったん閉めるのか
- 借りている物件は、解約のときにどこまで戻す約束になっているのか(原状回復の範囲)
- 設備を処分するのに、いくらかかるのか
契約のときに「原状回復は現状のまま返す(スケルトンにしない)」と決めておけるかどうかで、閉めるときの金額が大きく変わります。この交渉は、借りる前にしかできません。
7. 収入の柱を1本にしない
続いている移住者の方の多くは、店だけで生活していません。 平日は別の仕事をして週末だけ開ける、家族のどちらかが安定した勤めを持つ、農業や加工と組み合わせる。
そういう形です。
「店一本で食べていく」と決めてしまうと、売上が落ちた月に判断を誤ります。
一時的に当たる店と、続く店は違う
開店した直後は、珍しさでお客さんが来ます。
問題はそのあとです。
半年後、3年後にも続いているお店には、業態そのものに理由があることが多いです。
町に「無いもの」を埋めている
そばやうどん、寿司、天ぷら、とんかつ、うなぎ、定食。
誰でも知っている和食の業態なのに、その町に1軒もない、ということがあります。
食べたい人はいるのに、行く先がない。
そこへ出すと、宣伝をしなくても「あそこにできたらしい」と伝わります。
誰でも知っている料理なので、説明もいりません。
逆に、同じ業態がすでに3軒ある町で4軒目を始めると、お客さんの取り合いになります。
値段と評判の勝負になり、あとから来たほうが不利です。
ただし、あとから出しても伸びる場合があります。 先にある店に対して、お客さんが「ここがこうだったら」と思っていることがあり、それが満たされていないときです。
- 駐車場が停めにくい
- 昼はやっていない、日曜は閉まっている
- 子ども連れや車いすで入りにくい
- 持ち帰りができない、予約が取れない
- 量や値段が今の人に合っていない
こうした満たされていない点を、ひとつ残らず拾って提供するなら、2軒目・3軒目でも選ばれます。
同じ業態でも、中身は別のものになるからです。
見つけ方は、聞くことです。
その町の人に「今どこで食べていますか」「不満はありますか」と10人に聞けば、だいたい同じ答えが返ってきます。 そこが空いている場所です。
ただし、「自分ならこうする」という思い込みで始めると、ただの4軒目になります。
確かめ方は簡単です。
地図アプリで、その町の飲食店を業態ごとに数えてみてください。 昼に開いている店と夜だけの店も分けて数えます。
「意外と無い」が見つかれば、それが手がかりです。
「そりゃ美味しいだろう」と、説明がいらない
続いているお店には、初めての人にも伝わる理由があります。
- お肉屋さんがやっている焼肉屋
- 清流のそば、湧き水の湧く場所のとなりにある蕎麦屋
- 漁師さんや魚屋さんがやっている食堂
- 農家さんが自分の野菜で出す食事処
どれも、聞いただけで「それは美味しいだろう」と分かります。 この分かりやすさがあると、初めての人が入りやすく、人にも勧めやすくなります。 田舎では評判が人づてに広がるので、この分かりやすさが役に立ちます。
一方、「こだわりの」「厳選した」「無添加の」は、誰でも言えるので理由になりません。
問われるのは、立地や作り手そのものが理由になっているかどうかです。
移住して始める方は、この理由を最初から持っていないことが多いです。
だからこそ、地元の生産者や漁師さんとつながって、仕入れの形を作ることに時間をかける価値があります。
物件を探すのと同じくらい、大事な準備です。
実は当社も、雲仙市で飲食店をやっていました
偉そうに書いてきましたが、当社も以前、雲仙市でたい焼き屋をやっていました。
いちばん出た日で、1日に3,000個。
おかげで、開店から2か月で初期費用を全額回収できました。
ただ、これは「たい焼きなら儲かる」という話ではありません。
持ち帰りで回転が速いこと、原価が読めること、行事や催しで数が出ること、そしてその場所と時期に合っていたことが重なった結果です。
同じ形を別の場所で始めても、同じようにはいきません。
それでも、自分で店を開けて、仕込んで、売って、数字を締めた経験は残ります。
1日に何個売れば回るのか、雨の日に何割落ちるのか、人を1人雇うと利益がどう変わるのか。
そうした感覚は、物件を紹介するだけでは身につきません。
当社ができること
当社は不動産の会社です。
ですが、上のような経験から、物件のことに加えて、次のこともお手伝いしています。
月ごとの収支、開業資金、損益分岐点、客数と客単価の組み合わせまで、エクセルで確かめます。
- 事業計画を一緒に作る。 売上の見込み、原価、人件費、家賃、開店までにかかるお金。
「この数字なら回るのか」を実際にエクセルで組み立てて、実現できそうかを一緒に確かめます。
数字が厳しければ、そのこともそのままお伝えします - 地元の金融機関のご紹介。 不動産の仕事でつながりのある金融機関に、融資のご相談としておつなぎします(融資が受けられることをお約束するものではありません。
審査は金融機関の判断です) - 物件を見るときに、駐車場・給排水・電気・用途の変更など、あとで費用になる点を一緒に確かめる
- 契約の条件(原状回復の範囲、解約の予告期間)を、始める前に整理する
- 空き家を借りて始める場合の、所有者との話し合い
- その地域の人の動き(通り・季節・車の流れ)について、地元で見てきたことをお伝えする
「この場所で、この形なら続けられそうか」を一緒に考えるところからで構いません。
物件を決める前にご相談いただくほうが、お役に立てます。
厳しいことを書きましたが、この地域で長く続いているお店も、もちろんあります。 共通しているのは、小さく始めて、地元のお客さんに合わせて形を変えてきたことです。
夢を持って来られた方が、数年で帰っていくのを見るのは、地元の人間としても残念です。
始める前に、現実の数字を一緒に確かめておきましょう。
このコラムは2026年9月24日に書きました。
制度や金額は変わることがあります。
本文中の「※〇年〇月〇日時点」もあわせてご確認ください。
ご相談は無料です
このコラムの内容でご不明な点や、ご自身の物件についてのご相談も承ります。
売る・売らないが決まっていなくても構いません。
内容は秘密厳守です。